近所のBOOKOFFの100円コーナーにて発掘した本である。
100円コーナーなど読むに値しない本ばかりだろうと目もくれていなかったのだが、良書も置いてあるのだと実感した。
さて、さっそく本書について書いていきたいと思う。
この本の著者は、JRで42年間も運転士を続けてきたベテラン中のベテランである。その大ベテランが書いている本だけあって深い。鉄道業界に自称詳しいという怪しい評論家やジャーナリストが書いた本と異なり運転士という仕事がいかに職人の世界であるかを深く知ることが出来る。
全8章の構成となっており、第7章までは車体の構造や操作方法、ひいては電気のことまでと物理的な専門分野の話まで登場する。
詳しい正確な数値まで多数登場するので難しく感じるかもしれないが、本の厚さに反し読みごたえがあり楽しめる。
そして、私が一番注目したのは第8章「運転士の思い」だ。
この章には運転士が電車を運転する上においてどんな事に注意したり、悩んだりしながら業務をこなしているか知ることが出来る。
まず、乗務中に怖いことが8つ書いてある。
- 下り勾配
- ブレーキの効き
- 空転と滑走
- 雨・霧・霜
- 毎日がレンタカー
- 信号機の間近に止まること
- ホーム端の乗客
- 乗務中の居眠り
この中で「5.毎日がレンタカー」が特に気になった。どのようなことかを引用を踏まえて紹介したい。
運転士は乗務する車両を選べない。運用が決まっているのだから前もって知ることは可能だが、定期検査の直前か直後かでブレーキの効きが微妙に異なることは経験している。ともかく乗務して最初の停車駅までは全く白紙で挑まねばならない。その上に乗客の多少によって加速とブレーキが異なるから、同じ形式でも各列車が 別の列車に感じられる。
ある見習いが言った次の言葉が今でも記憶に生々しい。
「私たちは毎日レンタカーに乗るんですね。マイカーの乗り慣れた感覚とは全く違う」と。
確かにと非常に納得させられた。
同じ形式の車体でさえ乗客の人数によりブレーキの効きが左右される。現在は自動運転が増えてきたと言えども、手動操作もまだまだ行っているため、常に訓練が欠かせない運転の難しさを痛感した。
本書には他にも運転士が日頃感じている想いなどが記載されている。この一冊のお蔭で、もしかすると電車通勤が楽しくなるかもしれない。
電車本といえばマニア向けというイメージがあるが、電車通勤で疲れているサラリーマンの方や電車通学の学生に読んでもらいたい。