思考拡張日記。

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書評。『「本が売れない」というけれど』(永江朗著)ポプラ新書

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当ブログ2回目の書評となる。

今回取り扱った本は、

『「本が売れない」というけれど』(永江朗著)ポプラ新書

 なぜ、日本国内で出版不況が起きているのかについて解説されている。

「昔の人に比べ、現代人は本を読まなくなった。読書離れにより、本が売れなくなったのだ。」こう単純に考え、読書推進運動をすれば勝手に本が売れるようになると思っていた。しかし、これだけでは根本的な解決にはならない。

「読書離れとはなにか」「本が売れないとはどういうことか」これらについて考えていこうとするのが本書である。

 

 

 

■本書が挙げる、出版不況の原因

①バブルの崩壊と日本経済の長期不況

バブルが崩壊したのは1991年から93年にかけてだった。

取次ルートの書籍・雑誌販売額が前年に比べてマイナスに転じるのは少し遅れて97年からだった。しかし週刊誌は94年、96年は前年比マイナスになっているから、影響はバブル崩壊直後からあらわれていたとみるべきだろう。

モノの値段が安くなり、デフレが続いた。企業は正社員を契約社員やパート・アルバイトや派遣社員に置き換えて人件費を削った。

物が売れなくなった。景気が悪いと、将来への不安が募る。そういえば倹約や節約についての本がベストセラーになった時期があった。

不景気は雑誌を直撃した。雑誌が売れなくなっただけでなく、広告収入が減った。

広告を出す余裕が企業から消えた。「費用対効果」ということが盛んにいわれるようになった。

 

 ②郊外化と商店街の衰退

大店法の改正をきっかけにして、超大型書店(メガストア)が増えた。また旧来の商店街が衰退して、郊外のロードサイド店に客が移った。書店の数は減ったけれども、総売場面積はむしろ増えた。売場面積が増えたらな、売り上げも増えそうなものだが、実際はそうなっていない。

零細店の閉店と大型店の開店は、たんなる「置き換え」ではない。零細店と大型店では商品構成がまったく違う。零細店の商品構造は雑誌と文庫とコミック、そしてわずかばかりの書籍。それに対して大型店では書籍が多い。10坪の零細店100店と1000坪のメガストア1店では、扱われる雑誌の量が違う。

週刊誌を近所の零細店で買っていた読書はどうするか。メガストアが都心にできたからといって、いままで零細店で買っていた読者がメガストアまで行くことはあまりない。近所の零細店がなくなると、読者はあきらめる。その週刊誌を買わなくなる。

大手の総合出版社にとって雑誌は経営の支えだった。販売収入と広告収入の両方があるからだ。これが収縮していったことは経営的に大打撃だ。

 

 ③高齢化と人口構成の変化

日本の出版産業、とりわけ雑誌は、ベビーブーマー団塊の世代)に支えられてきた。彼らの成長とともに、新しい雑誌が開拓され、売り上げを伸ばしてきた。その世代がリタイアする時期に入っている。引退すると消費行動は変わる。毎朝、通勤電車に乗ることがなくなれば、週刊誌を購読する機会も減る。

老眼や白内障の進行などによって、読書そのものが減る人もいるだろう。世論調査のデータを見ても、高齢者になると読書率は低くなる。一方、若い世代はベビーブーマーに比べると人口がはるかに少ない。だから一人当たりの購買冊数が同じであっても「若者向けの本は売れない」ということになってしまう。おそらくそれが「最近の若者は本を読まない」というイメージにつながるのだろう。

 

ブックオフ、アマゾン・マーケットプレイス、図書館

ブックオフの登場は古書を身近なものにした。また、アマゾンのマーケットプレイスによって、読者(消費者)は購入するときの選択の幅が広かった。図書館が増え、2010年には取次ルートの新刊販売冊数を公共図書館の個人向け貸出冊数が抜いた。古書の販売冊数と図書館での貸出冊数を合わせると、新刊書の販売冊数を超える。つまり「(新刊の)本が売れない」ことを、「読書ばなれ」のせいにするのは無理だ。ぼくたちは本を読んでいる。ただ、その読んでいる本が、必ずしも書店で買った新刊ではなくなっただけのことだ。

 

⑤メディアとのかかわり方の変化

読書ばなれは起きていない。しかしぼくたちのメディアとのかかわり方、情報とのかかわり方は大きく変わった。インターネットや携帯電話が登場したためだ。

インターネットはぼくたちの生活を大きく変えた。何かについて知りたいとき、まずはネットで調べるということがあたりまえになった。店を探す、病院を探すといったことから、ラジオで耳にしたちょっと気になることとか、購入を検討している家電の評判だとか。国語辞典の代わりに辞書アプリを使い、ロードマップの代わりにカーナビを使う。

さまざまなメディアのなかで、新聞を含めた出版・印刷メディアの地位が相対的に低下した。

もっとも、ネットメディアと本は重なるところが大きい。電子書籍や電子雑誌はいうまでもなく、企業のサイトや個人のブログを含めて、本と共通するところが多い。読者の側からすると、これまでは印刷物を読んで知ったことを、いまはネットで読んで知っているにすぎない、ということかもしれない。だから必要なのは「本」「書物」「出版」という概念をどう更新していくかということだ。出版業界、出版産業の「売上額」にしても、ネットメディア等を含めて考えるべきかもしれない。

 

本から丸々引用したため、かなり長くなってしまったが、出版不況にはこういったことが原因として考えられると著者は述べている。

 

出版不況の背景にはこのように様々な要因がある。現状を短絡的に「読書ばなれ」の一言で片づけるのでなく、様々な視点を持つことが大切だと学んだ。

その上で、どう変えていくか対処法を考えていくのだ。

 

また、出版不況と言われようとも、出版社はなかなか潰れにくいという事も知れた。

なぜかと言えば、本の価格を出版社が自由に決めることが出来るため、利益率を操作できるからだ。書店側からすれば、いくらでも搾取されるため辛い話ではあるが、本を生み出す側を守るためには致し方ないことだと感じる。

しかし、それでは現状を打開できないので、書店が儲かる仕組みも同時に考案していかねばならない。流通させるのは書店なのだから、その流通経路を守っておかないと、いくら良書が生まれようとも世に気付かれずに消えてしまう。

 

出版業界に興味が無い人でも楽しめる本だと思う。

よく耳にする「読書離れ」について、本当かどうか自分の目で確かめることが出来る楽しい本である。