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思考拡張日記。

読者と料理とネットが趣味です。

小説「半透明な夜を」

短編小説
その砂の中には大小の様々な生き物が形作られていた。

月夜と数少ない街頭に照らされたその塊たちはじっと静かにその場に佇んでいる。

冬も終焉を迎えつつ、温かみが空気に入り込んできたこの季節の夜はとても過ごしやすい。

絹子はひとり、公園に居た。

仕事を終え、外で酒を呑み食事を終え、帰路につく。

その場で男に口説かれ、朝までボクと二人でと誘われたが、きっぱりと断った。
なぜ、断ったかといえば、断ってみたかったからだ。

思いもよらぬ男前からの口説きを敢えて断ってみるということをしてみたかったのだ。
きっと、微妙なバランスの男からなら承諾したかもしれない。
整った男の顔がどのように歪むのかを見たかったのだけのことである。

想像したとおりに、失意の顔を見せてくれた満足した。
もうきっと、どこかで会うことはほぼ無いのだろうけれども後悔は無い。
会えば運命だし、会えなければそれまでのこと。
というか、断ってしまった時点で、きっと彼の中から私は綺麗サッパリと無くなってしまった。
透明人間になったことだろう。

公園には、当然の如く絹子しかいない。

気持ちが良くなり、ヒールを脱いで砂場に投げてみた。
パサッと軽い音で斜めに突き刺さった。ザラザラになったヒールを再び履くために、逆さまにしてトントンと砂を落とすことはなんだかバカバカしくてする気にきっとなれないだろう。

反対のヒールも投げた。砂場に同じように転がった。
絹子の投げた靴たちを砂場の動物たちはじっと見ている。
上手に出来たものだ。くま。犬。ぞう。きょうりゅう?。砂のサファリパークである。

正方形の砂場の縁を、両腕をピンと並行に伸ばしバランスを取りながらくるりと歩いてみる。
たまによろけて、砂場に落ちそうになる。まだ身体からお酒が抜けていないようだ。

家にも帰らずにこんなところで何をしているのだろうか。男の誘いを断ってまですることじゃないだろうに。おかしくなって少しフフフと声が溢れてしまう。

繁華街からさほど離れていないこの場所からは、車の走る音やクラクションの鳴る音が聞こえる。
酔っぱらいだろうか。下手くそな歌声も遠くから耳に入る。

絹子はしゃがみこむと、砂を手に取り団子を作り始めた。
サラサラとしてなかなか思うように固められない。
さきほど、コンビニで買ったミネラルウォーターをカバンから取り出すと、少し水を砂に含ませた。
よしよし、うまくいくね、これで。
団子を4つ作った。
それらを動かぬ動物たちに差し出す。
「これで家来になりなさい。鬼退治に行くわよ」
そんなことを言い、それぞれの動物の前に置いてみた。

当然だが、誰も反応をしめしてくれない。

幼き頃に読み込んだ絵本の世界なら今すぐにモコモコとこの子たちは動き出し、私の側に寄ってきてくれるはずなのにと考えてみる。
こんなにも月がキレイならば、そんな不思議なことが起きてもいいのに。

「なんで家来になってくれないのよー!」

と、きょうりゅうに軽く足で蹴る真似をする。
頭を踏みつけるフリをしようとしていると、バランスを少し崩してしまった。
このままでは本当に踏みつけてしまいそうだ。
砂といってもさすがにかわいそうである。わわわっと、どうにか身体を引き戻そうとするが、もう重心は傾きだした。

その時突如、重心を後ろに引っ張ってくれる力が身体に働いた。
くまか、犬か、ゾウが仲間を助けようとしているのだろうか。
助けるのならきっとゾウだろうな。鼻を使って引っ張ってくれそうだから。
だけど、その助けてくれる力には温かみがあった。冬の終わりの熱が、砂に体温を与えたのだろうか。

「ボクで良ければ家来になりますよ」

彼だった。男前の彼だった。
絹子が断ったあと、彼は寂しさを抱え、一人ちょっとフラつきその後、この公園の側を通りかかった。
そこで一人いる私の姿を見かけ、たまたま遭遇したわけだが、後をつけたと思われるのではと思い、気づかれないように足早に去ろうとしたそうだ。
だけど、絹子がなんだか不思議なことをしているので、思わず近寄ったそうである。

絹子は一部始終を見られていたと知り、少し恥ずかしかったが、なんだか可笑しくなった。

「実はボク断られたかったんですよね。寂しくなりたかったんです。きっとこの人なら断ってくれるだろうなって思って言ってみたんです。そうしたら、案の定断ってくれて、それでその時のあなたの顔を見たら、とても綺麗で。。」

「私も断ってみたかったのよ。どんな顔をするか見たかったの。その時の君の顔もとても綺麗だった。」


私たちは透明にならなかった。